喘息について
喘息の発症の原因ははっきりとわかっていないのですが、男の子に多く、遺伝的要素に加えて本人のアレルギー体質などといった体質的な要素と、ダニやハウスダスト、受動的喫煙、環境汚染物質、ペットの毛などといった環境的な要素が加わることで発症するのではないかと考えられています。
喘息を発症していると、気道が慢性的な炎症を起こしており、そのためにちょっとした刺激に対しても過敏になっています。そこに、体質的な要素や環境的な要素による刺激が加わると気道が狭くなって、空気の流れが悪くなってしまい、喘息発作の症状が起こります。
また、人の身体は炎症を起こすなどで組織が傷つくと、その部分を修復しようとする力が働きますが、慢性的に炎症が続くとだんだん組織は弾力性を失ってしまい、常に気道が狭くなっているような状態になり、発作を起こす回数も増えてしまいます。そのような状態にならないように、しっかりと治療を続ける必要があります。
喘息の診断は、まず問診でこれまでの経緯やどのような症状が出ているか、家族歴などをお訊きし、診察で身体の状態を診ます。その上で、アレルギー検査や呼気検査などを行うい判断していきます。心臓や肺などに他病気がないかどうか、X線検査などの画像検査も行う必要があります。
喘息の治療の目標
成人の喘息は治りにくい疾患として知られていますが、小児喘息は6~7割までの子どもが完全に治るという報告があります。
そのため、きちんと治療を続けて、「昼夜を通して症状が無く」「肺の機能も正常な状態を保ち」「その状態を保って通常の日常生活を送ることができる」ようにすることが小児喘息治療のゴールと考えられています。
小児喘息の予後は「寛解(かんかい)」と「治癒」という2つの状態があります。
寛解は治療薬を使わなくても症状が出ないようになることです。
そして治癒は治療をやめて5年以上経過しても症状が出ない状態を言います。
治癒の状態を目標とするためには、寛解になってもそこで完全に治療を止めるのではなく、定期的に呼吸機能の検査などを受けながら、しっかりと経過を観察しておくことが大切です。
喘息は改善できます
近年になって、海外や日本で小児喘息の患者数についての調査があり、これまで大気汚染などの要因からずっと増え続けていると考えられていた小児喘息の患者数は2000年以降減少に転じてきていることがはっきりしてきました。日本でも、西日本の子どもたちの調査で、小児喘息をもっている子どもは2002年には6.5%だったのに対し、2012年には4.7%と1.8ポイントも減ってきていることが分かりました。また、小児喘息に関する治療も発達してきており、喘息で入院する子どもや亡くなってしまう子どもの数も格段に減ってきており、特に2017年の調査では14歳までの子どもの喘息による死亡はとうとう0になっています。
しかし、喘息は治りにくい病気、治らない病気というイメージが一般にかなり残っていることも確かです。そのため、どうせ治らないとあきらめて、しっかりと治療を受けていない子どもの数も実は少なくないのではないかと思います。
子どもの喘息はしっかりと治療さえすれば、普通の生活に差し障りのない状態まで導くことができる疾患なのです。あきらめずお悩みのことがあれば、なんでも医師に相談してください。
喘息の対策・予防
喘息は、もともとのアレルギー体質、遺伝的な因子、生まれつき気管支が過敏、肥満、生まれた時の低体重など要素をもつ子どもで特に男の子に多い傾向があります。
これに、ダニ、ハウスダスト、ペットの毛といったアレルゲンの因子、風邪や気管支炎、肺炎といった呼吸器系の疾患を起こす特定のウイルス、アレルギー性鼻炎、薬物、天気、大気汚染物質や接着剤、塗料などの化学物質、タバコの煙といった環境要因が加わって発症するだけではなく、一度喘息になるとこれらの要素が発作を引き起こす引き金にもなってしまいます。
発症させないようにする、悪化させないようにするためには、治療だけではなく、こうした環境的要因をできる限り取り除いていくことも大切です。
まずは、住まいを清潔に保ち、カビ、ダニ、ハウスダストをできる限り減らすこと、喘息の子どもがいる家庭では家族は全員禁煙することが第一歩です。
室内の清潔を保つ工夫として、
- エアコン内部のカビやフィルターのホコリを定期的にメンテナンスする
- 掃除機はフィルターのしっかりした防塵タイプを選ぶ
- 照明は天井直付けのシーリングタイプを選ぶ
- 寝具は防ダニ加工または、高密度繊維などの布団カバーを使用
- 衣類はこまめに洗濯し、天日干しを心がける
- 絨毯やカーペットの設置は避ける
- カーテンは床につかない長さで洗いやすいものにする
- 布製のソファーやソファーカバーは使わない
- 本棚は壁から離して設置し、ガラスドアがついたものにする
- ぬいぐるみはできる限り置かず、置くとしても洗えるものにする
- 毛の落ちるイヌやネコなどのペットは飼わない
- 鉢植えは室内には置かない
などといったことで、かなりの悪化要因を減らすことができます。
喘息の治療
喘息治療の基本は、気道の炎症を抑え、症状があらわれないようにして、発作を予防することにあります。これを医療用語で長期管理と言いますが、この長期管理では、薬物療法だけではなく、前述のような環境要因の評価も大切です。
そのため、定期的に診察を受け、今の状態を評価し、それにあわせて治療方針を調整していくというサイクルを繰り返します。その際、保護者の方にも喘息という疾患がどのようなものか、どのようにコントロールしていくかを良く知っていただき、ご家族と医師が協力して環境を整えていくことが重要なのです。
喘息の治療薬としては、日常的に服用をしたり吸入をしたりして発作がおこらないようにするコントローラーと呼ばれる薬と、発作が起こった時に使用して発作を鎮めるリリーバーと呼ばれる薬を使用します。
ここで大切なのは、コントローラーを忘れずに医師の指示通りきちんと使い続けることで、発作が起こらない状態を少しでも長く続くようにしていきます。
コントローラーには、吸入ステロイド薬タイプと生理活性物質の一つであるロイコトリエンの働きを遮断する抗ロイコトリエン受容体拮抗薬というタイプの薬があります。これらの薬を、医師の指示通りに毎日使用することで、気道の炎症を治し、発作を減らしていくことが可能になります。
ステロイド薬と聞くと副作用を気にされる方も多いのですが、喘息で使われる吸入薬は、肺だけに作用することが知られており、全身的な影響はほとんどないと考えられています。ただ、ごく一部で、身長が伸びにくいという報告もあります。ただし、喘息の状態が続けば子どもの発育に影響があることも確かで、何を大切にしてどういう治療を行うかは、医師と保護者の方、またある程度で成長したら子どもも含めてしっかりと相談して決めていくことが大切です。
最初にどのような薬を使うかは、医師が子どもの状態を見極めて決定しますが、5歳以下と6歳以上では、使用する薬も異なってきます。治療の継続中は、問診票などを用いて、喘息の状態を1月に1度は診察や呼吸機能の検査などを行い、評価しなおして、薬の変更や生活上の指導などを行っていくことになります。
日常生活での注意
社会生活(学校保健など)について
保育所、幼稚園、学校、校外活動、塾などでの生活については、喘息があること、発作の予防や緊急時の対応などについて、事前に関係者と話し合っておく必要があります。
その場合、医師が作成する「学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)」や「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」を摘出しておくことが大切です。
お泊まり会、林間学校や臨海学校、修学旅行などの泊まりがけ行事にもできる限り参加することが大切です。そのために、事前に医師、学校や保育園関係者、保護者がしっかりと話し合って準備を進めることも大切です。
発作が起こったときのためのリリーバーを忘れずに用意し、キャンプファイヤーや花火などは煙を吸い込まないよう、少し離れた場所で参加する、布団のホコリに注意し寝室で暴れたりしないようにしっかりと指導してもらうといった配慮を事前に話し合ってください。
こちらの資料をご活用ください。
- 公益財団法人日本学校保健会のWebサイト:「学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)」
- 厚生労働省のWebサイト:「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」
運動誘発喘息について
運動をすると喘息の症状が一時的に出ることがあります。これを運動誘発喘息と言います。しかし、運動誘発喘息を起こしやすいからと言って運動を避ける必要はなく、むしろ積極的に運動をする方が良い結果が生まれることもあります。
ただし、そのためには医師と相談しながら、日ごろから、コントローラー薬をしっかりと使用して、発作が起こりにくい状況を保っておく必要があります。
また、運動の開始前にはウォーミングアップを必ず丁寧に行う、寒いときは急に冷たい外気にさらさるようなことがないようマスクで保護するなどで工夫しましょう。
予防接種・手術時の対応について
また、手術などの場合は、コントローラーをしっかりと使用し、良い状態にして受けるようにしましょう。
災害に備えて
災害時は避難所の生活、がれき、ストレスなどで喘息を悪化させるような原因が増え、発作が起こりやすくなります。リリーバーやコントローラー薬、お薬手帳などは災害時にすぐ持ち出せるよう、準備しておくことも大切です。
また避難所では、喘息の悪化要因について、発作の際の対応などについてなどを周りの人に良く理解してもらい、協力して事にあたれるようにつとめましょう。
そのために、普段から積極的に地域の避難訓練などに参加し、災害時のアレルギー対策などについて問題提起をしてみるのも一つの手段だと思います。
日本小児アレルギー学会のサイトでパンフレットをダウンロードできますのでご活用ください。