子どもの咳について
咳は、気道に入り込んだ異物や老廃物を外に排出するために起こる自然な反応です。特に子どもはまだ成人と比べて身体が小さいため、気道も細く、ちょっとした異物にも反応して激しい咳をする傾向があります。
そのため、風邪をひいた後、咳がなかなか治らないのは、身体を回復させるために闘った抗体によって分泌された痰が残っているものを排出する反応や、炎症を起こした気道が過敏に反応していることなどが原因となっているからです。
しかし、そうした自然な反応以外に、咳が続く原因となる疾患が隠れていることもありますので、いつまでも咳が続くようなら、その他の症状がないかどうか、咳が出やすいきまった時間帯があるかどうかなど、身体全体をしっかりと観察して受診時に伝えてください。治療が必要な原因疾患があるのか、あるとすればどのような疾患が考えられるかなどを、判断するための大切な情報となります。その上で、心配なことがあればいつでもご相談ください。
咳の種類
炎症が起こっている場所や、程度などで咳はさまざまな音の特徴があります。日中はあまり咳が出ず、夜間睡眠時に咳が続くようなケースでは、そうした音の特徴を医師に伝えていただくことが重用な手がかりになることもあります。言葉で表現しにくいような場合は、スマートフォンなどで動画を撮影し、診察の際に見せていただくことで判断がつくこともあります。
医師に伝える際には、以下のような表現を参考にしていただけると、伝わりやすくなります。
- 乾いたコンコンという咳
- 痰が絡んでむせたようなゲホゲホという咳
- イヌやキツネの鳴き声のようなケンケンという咳
- 喘息のようなヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴 など
速やかな受診が必要な咳
- 顔色がどす黒い、または青白い
- 息をするたびに肩が上下している(肩呼吸)
- 息をするたびに鎖骨の上や肋骨の下がくぼむ(陥没呼吸)
- 息をするたびにのどなどから異音がしている
- 息をするたびに小鼻が膨らんだりしぼんだりとひくひく動いている
- 咳で睡眠がとれていない
- ヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴がある
- 異物を吸引、または飲み込んでしまった可能性があって咳がでている
このような症状のどれか1つでも当てはまれば、すぐに受診する必要があります。
また、気管支喘息によって吸入薬などが処方されている場合は、医師の指示通りに吸入を行ってください。
このような症状が出ていない場合でも、受診したほうが良い目安が、咳が1週間以上続く場合です。あまり咳が続いているようなら、お早めにご相談ください。
考えられる疾患
風邪
風邪はウイルスや細菌などに感染し、上気道(鼻、のどなど)が炎症を起こしている状態で、かぜ症候群や感冒などとも言われます。
多くの場合ウイルスが原因で、風邪を起こすウイルスとしては、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、コロナウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、RSウイルスなどがあります。
多くの場合、10日から25日程度で咳の症状は改善していきますが、炎症によって気道が過敏になると、咳が慢性化してしまうこともあります。このような状態を感染後咳嗽(かんせんごがいそう)と言いますが、さまざまな可能性を考慮して、こまめに診察し経過をみていく必要があります。
クループ症候群
(急性喉頭気管支炎)
クループ症候群は、声の通り道の炎症などで起こる呼吸状態の症状の総称です。生後6か月から3歳ぐらいまでの子どもに起こりやすく、ケンケンというイヌやキツネの泣き声のような咳とともに発熱があり、鼻汁がでることなどが特徴的な症状です。
重症になった場合、肩呼吸や陥没呼吸(鎖骨の上や肋骨の下が息とともにへこむ)に加え、ヒューヒューと喘鳴も起こりますので、そうした症状が出たらすぐに受診してください。
とくに1歳未満の子どもの場合、症状が強くなりやすく、酸素吸入などが必要になるケースもありますので、注意が必要です。
治療としては吸入やステロイド剤の投与を行います。
副鼻腔炎
副鼻腔炎は、顔の奥にある鼻と繋がっている空洞部分が感染などで炎症を起こしている状態です。空洞に膿が溜まり、それが鼻を通してのどに流れ込む後鼻漏という症状を起こしやすく、その場合、咳の原因となります。
副鼻腔炎には急性のものと慢性のものがあり、急性の場合は6割程度が自然に治ると言われています。しかし、初期に手当を誤ったり放置してしまったりすると慢性化させてしまうこともあり、黄色い鼻汁が出ているような症状があったら、まずは受診して抗菌薬などを服用ししっかり治しましょう。
診断は顔面のX線検査などで行いますが、詳細に状態を確認するにはCT検査を行います。ただし子どもの場合、被曝も考慮する必要があり、慎重な判断が必要になります。
気管支炎・肺炎
風邪などを放置してこじらせて、上気道から炎症が下気道まで拡がると、気管支炎や肺炎を起こします。発熱、咳などの症状は上気道炎より激しくなりやすく、慎重な治療が必要になります。
急性気管支炎の場合は、ウイルス感染によることが多く、一般的には抗菌薬などが効きません。しかし、長引く咳などの状態によって細菌感染が疑われる時は抗菌薬の投与も検討します。
薬効が得られずあまり長引く場合は百日せきやマイコプラズマ感染などの可能性も考えられます。
肺炎も治療方針は気管支炎と同様ですが、呼吸困難などが起こりやすく、酸素吸入などが必要になるため、入院治療を検討する場合もあります。
気管支喘息
気管支喘息では、何らかの理由で気管支を中心に炎症が起こり、気道が狭くなっている状態になります。そのため、ちょっとした刺激によって喘息発作が起こり、ヒューヒュー、ゼーゼーと喘鳴があるのが特徴です。
原因は、何らかのアレルギーで、特にハウスダストやダニなどの刺激がきっかけとなりやすく、またアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを指摘されている子どもに多く見られます。
しかし、中にはこれまでアレルギー反応を起こしたことがなくても、突然気管支喘息を発症することもあり、風邪を引いた後に咳が長引き、明け方咳で苦しんで眼が覚める場合や、運動後にゼーゼーとする場合などは、一度受診して検査を受けることをお勧めします。
喘息がある場合でもそうでない場合でも、咳がひどく話せない、歩けないといった状態や、息がつらそうで顔色が青かったりどす黒かったりする場合、呼びかけに反応がない場合や、肩で息をしている、息をするたびに鎖骨の上や肋骨の下がへこむ、小鼻がヒクヒクとしているなどのケースではすぐに受診をしてください。
咳喘息
子どもには珍しい症例ですが、喘鳴という気管支喘息に特有の症状や呼吸困難が無く、咳だけが症状の喘息です。特徴的なのは、痰が絡まない乾いた咳が続くことで、気管支喘息と同様に、就寝後の明け方や、冷気、タバコの煙などをきっかけとして始まります。喘鳴を伴わない乾いた咳が8週間以上続いて、気管支拡張薬が有効な場合、咳喘息と考えられます。
治療としては、気管支喘息と同様に、気管支拡張薬や抗アレルギー薬などが有効です。
百日せき
百日せき菌、またはパラ百日せき菌という細菌による感染症で、飛沫感染などによって伝染します。最初は風邪と同様の症状が1~2週間続き、その後特有の痙攣するような咳がでます。咳はコンコンと立て続けに起こり、息を吸い込む時に特徴的にヒューという音を立てることが多く、顔面が赤くなったり鼻血を出したりするようなこともあります。その後1週間から数か月を経て回復します。現在は4種混合ワクチンなどによって百日せきの罹患数は減ってきましたが、それでも高学年を中心に少しずつ増加傾向にあります。
家庭内感染も多く、ワクチンを接種していない6か月未満の子どもに感染した場合、咳発作だけではなく無呼吸などを起こし命にかかわることもありますので、注意が必要です。
感染症法では全例報告の義務があり、また学校衛生法では完全に咳が治まるまで、または5日間の適正な抗菌薬による治療が奏功したと認められるまでは出席停止となっています。
成人の感染もありますので、特有の咳発作が続く場合などは、他人にうつさないよう、積極的に受診・検査を受けるようにしてください。
気道異物
その時は大丈夫でも、異物が移動すると呼吸ができなくなることもありますので、様子をみたりせず、すぐに救急車を呼んで受診してください。
一般的には内視鏡などで異物を取り出すことになります。
※『誤飲』と『誤嚥』は全く違うものですのでご注意ください。
誤飲と誤嚥(ごえん)は似たような音で間違えやすいのですが、医学の分野でははっきりとした使いわけがあります。
誤飲は、異物を間違って飲み込んでしまうことで、誤嚥は食物や飲み込んだ異物が食道ではなく気管支の方へと入り込んでしまうことです。
誤飲の場合、たとえば電池など。中身のアルカリ性の物質が溶け出して危険なこともあります。しかし食物にしても、異物にしても気管支に入ると、気道が激しく咳き込んだり呼吸困難となったりします。
食事中や、何かを飲み込んだと推測される場合、激しい咳が続く、呼吸が苦しそうといった症状があれば、すぐに救急車を呼んでください。
胃食道逆流症
成人に多い逆流性食道炎の前段階である胃食道逆流症は、子どもの場合、食べ過ぎ、食物アレルギーなどによって起こります。また授乳中の乳児の場合は、授乳の姿勢や飲み過ぎなどでおこり、授乳後のゲップとともに吐き下したりするケースは正常の範囲内と考えられています。
しかし、アレルギーや胃、食道などの先天的な異常などで逆流を起こしている場合は、胃酸が食道の咳受容体を刺激したり、炎症が気管まで拡がったりして咳が出続けることがあります。
特に日中に乾いた咳をしている、横になったときに咳がでてくるといったケースでは胃食道逆流症も考えられますので、受診して検査を受けることをお勧めします。
心因性咳嗽(がいそう)
咳嗽とは医療用語で咳のことです。ストレスや緊張といった心理的な要素が気道を刺激し、咳が続いている状態です。日中は乾いた咳が続き、就寝すると特に咳が出ないといった特徴の続く咳がある場合、心因性咳嗽も疑ってみる必要があります。
ただし、心因性咳嗽の診断基準は無く、気管支喘息、咳喘息、副鼻腔炎、胃食道逆流症など、他の疾患の可能性が無いことが確認していきます。
この他にも、稀なケースとしては、先天性の呼吸器異常、免疫不全によるもの、心臓の疾患、薬物の副作用なども長引く咳の原因として考えられます。心配な場合は一度小児科などで詳しい検査を受けてください。
よくある質問
お医者さんにかかり風邪と診断されていますが、1週間以上も咳が治まりません。
このまま様子を見ているだけで大丈夫か不安です。
風邪はほとんどがウイルスによる急性上気道炎です。その場合、通常10日から25日程度で治るとされていますので、長くて3週間以上咳が続くケースも多いのです。
咳が8週間以上続き、長引いていて不安です。
8週間以上咳が続くような場合は、慢性咳嗽と判断されます。慢性的に続く咳という意味です。原因としては、風邪の後に咳が続く感染後咳嗽や百日せきなどの呼吸器感染症、気管支喘息、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎による後鼻漏などが考えられます。
その他にも、アトピーによる咳、心因性咳嗽なども考えられます。
8週間以上咳が続くようであれば、受診をしてください。